要チェック!~ 「再雇用後も同一賃金」判決の意味

先週、東京地裁が“ 定年後に再雇用された従業員の給料は、定年前と同じ仕事内容をこなしていた場合には、定年前の給料を支払うべき ” ということで、会社側は、再雇用によって引き下げられた賃金との差額を支払いを命じました (但し、確定はしていません) 。

政府が【1億総活躍プラン】の一つとして掲げる、正規労働者と非正規労働者間の賃金格差を埋める【同一労働同一賃金の原則】の趣旨を先取りした格好なのかもしれません。

そもそも定年後の再雇用制度は、厚生年金の支給開始年齢 (65歳) の引き上げに伴い、60歳定年退職者の雇用確保のため、企業側に再雇用希望者の雇用を義務づけたものですが、そこは政界・財界の妥協点があり、再雇用後の賃金体系については、企業側の裁量 (給料の引き下げ) が認められることになっています。これは、“ 通常、再雇用後にやってもらう仕事内容は、定年前のそれとは異なるだろうから ” という理由に基づくものです。

本判決は、一般論として、企業が賃金を引き下げて退職者を再雇用すること自体の合理性 ( 正当性 ) を認めてはいますが、原告労働者の仕事内容がトラック運転業務であり、定年の前後を通じて、労働内容が (全く) 同じであった (のでしょう) から、国が推奨する再雇用制度が予定する場面とは逆の結果になったわけです。

ただ、再雇用制度は、元々、“ 定年後は給料が下がるだろう ”という前提で、【雇用保険制度や厚生年金制度上の給付金】が支給されるという国の制度設計があり、定年後も同一賃金だとすると、これらの制度趣旨とのバランスをはかる必要があります。

また、“ 賃金は下がりますがそれでも再就職を希望しますか? ” という選択肢が提示された上での再雇用契約が通常ですので、本判決は、契約当初のそもそもの労使間合意を反故にさせる格好になりかねません。

加えて、多くの企業には、依然として、【60歳定年、終身雇用を前提とした年功序列型の賃金体系】が色濃く残っていますので、仕事内容が同一である限り、60歳以降の給料は、“下がりはしないが、上げるかそのまま維持するか”という方向へと議論がつながります。となれば、本判決が仮に確定して、今後の労働法制に大きく影響を与える事態になると、賢明な会社は、給与体系の全体的見直し (給与水準の引き下げ等) を段階的に行っていくことになるでしょう。新たな労使交渉の始まりです。

したがって、今回の判決内容 ( 確定はしていません ) は、労働者側にとっては、一見、朗報ですが、中長期的には「?」とも言えそうです。控訴によって司法判断が修正される土壌は残っていると思われます。

 

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