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今日は、6月にも少しお話があった事案・・・【性同一性障害を抱える原告が、職場である経済産業省を相手に、その職員の女性トイレの利用を制限する対応は違法だと訴えていた事案】に関する最高裁判所の判断について、その続きのお話をしていただきたいと思います。
Q 最高裁判決は7月11日だったんですよね?
A 最高裁判所は、経産省側の対応は違法だ、と判断しました。
原告は、身体的性別は男性。性同一性障害を抱え自認する性別は女性。
平成22年頃、職場上司らは、原告の了承の元、職場全体に向けた説明会(性同一性傷害についての理解を求める為)、職場同僚(とりわけ女性職員から)からのヒアリングなどを経て、その原告職員の部署があるフロア(30階のうち10階だとして)及びその上下1階(9階と11階)の女性トイレの使用は認めず、それ以外の階の女性トイレの使用を認める対応を取りました。そしてその後、平成27年頃にその対応を人事院が追認した。
その一連の対応が違法かどうかが争点となりました。
Q 職場である経済産業省などの対応について、地方裁判所は違法、高等裁判所は適法と判断していて、最高裁では違法となったんですよね?
A そう。大きなポイントは3つ。そのうち最初の2つはニュースや新聞でも報道されており、本当に大事なのは3つ目です。
Q まず1つ目はどういう点ですか?
A 【性別】というものは、その人の人格に関わる大事な要素であって、その人が認識(自認)する性別に即した日常生活を送ることができるということは重要な利益(=保護すべき事柄)だ、と地裁・高裁は述べました。おそらく最高裁も同意見でしょう。単なる趣味・趣向・主張・好み・特徴といった簡単なものじゃない。もはや冷やかすような話ではないということです。
Q 2つ目は?
A 裁判官お一人の意見(=全体としての意見ではない)ではあるのですが、”今回違法の判断こそはしたが、トイレ設備に限らず、不特定多数の人々の使用が想定されている公共施設の仕様の在り方全般を想定しているわけではない”という点。多目的トイレ、男女共用トイレの充実という点ではまだまだな場面が多いことを念頭にしてるんですね。
Q そして、一番重要な3つ目は?
A 経産省がトイレ利用制限をしたのが平成22年、人事院がその対応を是認したのが平成27年。一連の流れとして、約5年間の時代の流れがあります。
最高裁が違法としたターゲットそのものは、経産省がその職場フロアと上下1階の女性トイレの利用を制限したことそのものではなく、それを約5年間にわたり、その対応を見直さなかったこと、見直す必要があるか否か・この対応を維持したままの方が良いのか否かの再検討も含め、何ら進展がなかったこと、この点を捉えて違法と判断しました。
フロア3階分のトイレ利用制限を取ったこと自体、即、NGとは言っていないんですね。1~2名の裁判官の言葉ではあるが「急な状況変化に伴う職場の混乱等を避けるためのいわば激変緩和措置」として、その時点だけに限ってみれば、一応合理的対応としてとらえることもできそう。ただ、それから先の話として、現在継続している措置をどのようにするか or 軽減するかといったことの検討を行うべきだった、と指摘しているんです。そこに怠慢アリ。
要は、職場としてみれば全体の雰囲気を考える必要がありますから、”何らかの応急措置を取ることがあったでしょうサ。それは一応アリですね。ただ、それで十分といった胡坐をかいてはだめよ”という判断の仕方になるんです。
0か100か、10か90か、といった形式的・一律的判断ではないんですね。