【ご相談内容】
私の父は、晩年、実家で一人暮らしをしていましたが、近くに住む私の兄が、時折、父の様子を見てくれていました。父の遺産相続の話になったとき、その兄が、父の生前に父の口座から頻繁にお金を引き出していることがわかり、今や、兄弟姉妹間に感情的対立が生じてます。父のお金を返してもらうことはできますでしょうか?
A 「お金を返してくれ」という法的な理屈は一応考えることができますが、いつもお話しますように、実際にお金が返ってくるかどうかは別問題です。たいていのケースでは、①正当な理由であって、或いは、②正当な理由がないままに、預金を引き出した方の手元にはお金が残っていない可能性が高いからです。
Q ご相談者側としては、まず、なぜお金を引き出したか、その理由を聞きたいですよね?
A おっしゃる通り。
1か月に1回とか2か月に1回などのように、定期的に一定額が引き出されているような場合には、引き出した方の手によってきちんと金銭管理をしていた可能性が高く、そうなると、大方の支出についての領収証まで残っているような場合もあります。そうなると正当な理由での支出という話になりやすいですよね?父親にとって有用な費用に使った・・・、と。
逆に、突如として何十万といった金額の引き出しがあると、そのお金何のために引き出した?という疑惑が生まれやすい。
正当な理由であれば、当然正当に支出したわけですから手元にない。疑惑のある支出は、おそらくその方の生活費関連に回った可能性が高いからやはり手元にない。となると、いずれにせよ、果たしてお金が戻ってくるんだろうか?という不安が必ず出てくるわけです。
Q 先ほど、定期的に一定額が引き出されている場合は正当な理由が多いだろうというお話でしたが、それはどうしてですか?
A 簡単に言うと、今回のケースでいえばお父様の為の生活費関連に支出したと予想されるからです。皆さんも同じだと思いますが、健康に穏やかに生活する限り、月々の生活費はだいたい一定になってきますよね? もちろん、突発的な支出もありますが。
親の口座を管理する方が、その月の親の生活費として1か月に1回、必要な額を現金化して持っておく。何度も銀行に出かける手間も省けるわけですよ。毎月一定額が引き落とされている実績があると、1回の引き落し額がよほど高額でない限り、おそらくきちんと収支管理しているんだろうな・・・というベクトルに傾く。
Q お金を返してと言うにしても、肝心のお父様は亡くなっていますよね?この点はどういう風に理解すればよい?
A 正当な理由の無い引き出しの場合、生前、お父様はその息子さんに対して”私の金を返しなさい””私の口座に戻しなさい”という請求権を持っていたことになります。この権利そのものを、お子さんたちがが相続し、一人の兄弟姉妹に対して権利行使をする、という理論構成です。
ただ、完全に兄弟姉妹間は分裂してしまいますね。