預貯金を上手に利用して遺産分割協議をまとめる!

【ご相談内容】

今年初めての法律相談は、相続に関する最高裁判所の重要な判断について話をしていただきたいと思います。昨年の10月頃に、新聞などで「預貯金も遺産分割の対象に!最高裁判例変更か!?」というような記事が出たと思います。

Q どういう点で、重要な判断といえるのでしょうか?

A 昨年12月、最高裁は、過去に示した「預貯金は遺産分割の対象ではない」という判断を、「預貯金は遺産分割の対象とする」というように変更しました。例えば、父親が亡くなり、その相続人は息子と娘の2人だけという場面で考えてみましょう。父親が、不動産として1筆の土地・一棟の建物・とある上場株式を100株・とある銀行に100万円の普通預金を持っていたとします。ところで、法定相続分って知ってますか?

A 母親が生きていれば遺産の2分の1とか、子供たちは頭数で分配するとか。。。という話ですよね?

Q そう。今回の場合、相続人は子供2人だけなので、法定相続分は2分の1ずつですね。

で、父親が死亡した場合、一筆の土地は2つの土地に分筆されるわけではなく、とりあえずは兄弟2人で一筆の土地を所有することになります。一棟の建物についても、真っ二つに建物を分断することなく、2人で一棟の建物を所有します。100株の株式についても50株ずつそれぞれが株主となるのではなく、2人で100株を保有することになります。当面の間は遺産は現状のままにして、2人で共同して所有するんです。そして、兄妹での話し合い、つまり遺産分割協議の中で、土地はだれ名義にするか、売りに出すか、売って得たお金をどう分配するか、、、などの遺産分けをするわけです。

これに対して、100万円の預金については、“ わざわざ話し合いをする必要はありませんよ。法定相続分ずつ、つまり50万円ずつを当然に預金を受け取れますよ ”というのが従前の考え方だったんです。

Q 預貯金は特別扱いだったんですね?

A そう。預貯金は、その残高を法定相続分によって分配した額を、各自が絶対的に確保したものと考えて(いわば死守できるものとして)、それ以外の財産を遺産分割協議で公平に分配する流れになるんです。しかし、現実問題として、物理的な理由とか経済的な理由で、預貯金以外の財産を公平に分配しようにもできない場合が出てきます。

Q そうすると、結果的に兄妹のどちらか一方が多く財産を取得することになるケースもありえますね?

A では、その兄妹間に生じた分配格差を埋めるためにはどうすればいいか?

Q お金で解決するしか無い??つまり、多く財産を得た方が、その代わりとして、財産が少ない相手にお金を払うとか?

A そう。その原資として何を使いましょうか? “ 父親が遺してくれた現金の他に、預貯金があるじゃないか! ”ということを思いつきませんか?

Q でも、預貯金というのは、法定相続分によってきっちりと分配されるんじゃなかったでしたっけ?

A そう。従前の考え方によるかぎり、それぞれが50万円ずつ貰うことが保証されていた。裏返せば、その預金は、兄妹の格差調整のためには役に立たなかったわけです。“ もし仮に、お兄ちゃんは20万円分の預金、妹は80万円分の預金をもらうというような分配処理ができるのであれば、格差を埋めることができるんじゃない?きっちり50万ずつ確保させるだけでは話し合いがまとまらないんじゃない??” と、いうわけで、預貯金も遺産分割協議の対象にして、公平な遺産分けを実現すべきとしたんですね。

(注)最高裁判例は、普通預金通常貯金及び定期貯金は当然に相続分に応じて分割されないとしており、全ての種類の預貯金に当てはまるかはまだ不明です。

【追記】平成29年4月に、最高裁は、定期預金についても、相続と同時に当然に分割されない、と判断しました。これにより、普通預金・定期預金・通常貯金・定期貯金というオーソドクスな預貯金すべてについて、相続時の処理を統一したことになります。

この結論が、ストレートに意味するところは、一人の相続人が、自分の相続分だけを引き出す(当然の権利行使です)目的で、金融機関相手に訴訟をしても勝てない、ということです。預貯金の引き出しにあたって、金融機関との事前交渉であろうが、裁判であろうが、遺産分割協議書というタイトルかどうかはともかくとして、相続人全員からの署名をもらった書面の存在が大前提になるわけです。

支払いリスクを抱える金融機関にとっては、従前からの窓口対応にお墨付きを与えられたわけであり、好ましい結果かもしれませんが、相続人側にとっては、遺産分割がまとまらない場合の不利益を、この場面でも甘受せざるを得ないことになります。

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