相続放棄と実家の解体・修繕の関係

【ご相談内容】

父が残した遺産は実家の土地建物だけで、私たち相続人は全員、相続放棄の手続を取りました。その後、市役所から電話があり、「建物がひどく老朽化していて近隣周辺に危険。修繕するとか取り壊すとかしてほしい」と言われました。「相続放棄をしていても、建物の管理義務は残る」と言われました。だとすれば、相続放棄をした意味がないなと思ってしまうのですが、相続放棄をした子どもたちは、やはりそういう義務が残ってしまうのでしょうか?

A これは結構、難解なお話にはなってしまうのですが、結論としては、そのような修繕とか取り壊しの法的な義務はない。「役所の方から『相続放棄をしていても、建物の管理義務は残る』と言われた」とあります。なぜそのような発言につながるかというと…、そのように読めてしまう、勘違いさせてしまう条文があるからなんです。

Q 相続放棄した人でも管理義務が残ると思わせてしまう条文とは、どんな条文??

A 民法940条(→リンク先の条文へ)。2021年に相続関連の条文改正があったのですが、その改正後の940条では「相続放棄をした者は・・・当該財産を引き渡すまで、・・・その財産を保存しなければならない」と書かれてますし、改正前は「相続放棄をした者は・・・その財産の管理を継続しなければならない」と書かれてあった。

 一般の方からすれば、法律の改正前であろうが改正後であろうが、相続放棄してもやはり何かしらの管理をしなきゃならん、ということになる。

Q このような条文であるからこそ、役所の方は、「建物の管理義務は残る。修繕するとか取り壊してほしい」というように話をされた、というわけですね?

A  おそらくはそうなります。” 隣人や、地域、第三者との関係でも管理義務はあるんですよ!” てね。

この問題は、過去に、空き家対策問題にいろんな自治体が取り組む中での疑問点として上がり、国交省が回答しています。

この940条で規定された何かしらの管理義務というのは、他の相続人などとの関係で課された義務であり、第三者との関係で課された義務ではないんです。940条の考え方として、“(残された相続人及び)相続財産清算人に対して、保存義務がある”という整理をしたんです。

あくまでも相続財産清算人に対しての義務であり、自治体とか周辺住民に対する義務ではない。しかも、建物を良い状態で管理する義務まではなく、あくまでそのまま保存させておく義務でしかない。としたんです。

Q つまり、相続放棄した人は、清算人に対しては管理とか保存とかの義務を負うけど、隣人との関係では、そのような責任はない、ということですね??

A そう。隣家、近隣住民、その地域住民ひいては自治体との関係での責任を課したものではない。修繕・取り壊しの義務を課したものではないんですね。この点はしっかりと整理をしておかないと、今後もやはり同様の問題は生じてくるでしょう。

 ただ、気持ちの問題として、昔お世話になった実家、お世話になった隣人の顔を思い出せば、放っておくわけにはいかないよね、そういう気持ちの問題として修繕とか取り壊しをするという対応もありうる。ただ、そのような対応をするとした場合、相続放棄と矛盾することになるので、相続を承認したのね~というような変な流れになりかねません。

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