要チェック!~固定残業代の悩ましい問題

昨今、労働法制における重要な関心事の一つとして労働者の賃金問題(同一労働同一賃金の実現や最低賃金の全体的な底上げなど)があるわけですが、裁判実務においては、消費者金融に対するいわゆる過払金ブームが去った今、労働者の未払賃金問題というのが、これにとって代わろうとしています。

この未払い賃金問題ですが、( 労働の実態ではなく ) 世間的に権威や信用のある肩書という意味においてホワイトカラー的存在である医師・看護師の世界にも無縁ではありません。裁判所の判決や労働基準監督署の是正指導など、じわじわと新聞などで目にする機会が増えてきたように思えます。

医師や看護師も、医療機関で雇われている限りは、労働法上の労働者であることにかわりなく、時間外労働をした場合には、割増賃金を請求する立場にあります。

ただ、1点、他の一般的な業種・職種と比べて特殊な点があり、深夜や休日の宿日直勤務の場面では割増賃金を支払わなくてよい、という例外が労働基準法や厚労省通達で認められています。この場合には、一定額の日当を支払えば足りる、というのが原則的な取扱いとなります。但し、それが許容されるためには、厚労省が定めた条件があり、裏返せば、この条件を満たさない部分については、宿日直勤務であっても割増賃金が発生することになります。

深夜の病院内が、穏やかな雰囲気で終わる日もあるでしょうし、救急搬送で多忙な夜となる日もあるでしょう。そういうことも念頭に入れて、医師らに対する給与の基本給や各種手当、年俸の一部を割増賃金とする扱いの給与体系を取り入れるところも多いと思います。

ここで問題となるのが、既に固定残業代として医師らに支給したお金が、労働法上の割増賃金であるとして“既払い扱い”として認められるか否かです。

割増賃金として既払い扱いとなるか否かは、その後の割増賃金を算定する基礎金額に大きな差が生じるため、これは労使間で熾烈な争いとなるのです。

この点については、「労働契約における基本給等の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができるか否か」(判別可能性 ) という判断枠組みが、医師らに限らず広く労働者一般の未払賃金訴訟における共通認識にはなっているのですが、いかんせん、抽象的な表現なため、使用者側は何が正解で何が不正解なのか、どこまで踏み込めばよいのかなど、非常に頭を悩ませる問題であるといえます。

文責 弁護士 和田拓郎

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